囚人のジレンマ(12) [ゲームの理論]

そのことを思い出させてくれるものに、黒沢明監督の映画「生きる」という名作があります。私たちは、監督が主人公を通じて伝えようとしたメッセ-ジを再確認する必要があります。少し長くなりますが、物語のあらましを紹介したいと思います。

物語の主人公は、市役所で働く市民課長。彼はもう30年間も毎日同じ時間に始まり同じ時間に終わる生活を繰り返してきた。今の仕事はといえば、部下からあげられてきた稟議書にひたすら判を押すだけ。
そんな彼が、あと一年で定年を迎えることになる。彼はここ数年、胃の調子が悪く医者通いが多くなる。ある日、医者の態度からガンであることを悟る。それもあと半年の命。自分ではどうにもならない現実を前にして、彼は焦り、今まで決して休むことのなかった役所を無断欠勤する。そして酒浸りの数日が続く。何をしてもつまらない毎日-。そこで彼は、自分の30年間を初めて振り返る。「いったい自分は何をしてきたのだろう?」と。そんなある日、「市役所での仕事がつまらない」といって退職した女性と出会う。彼は真顔で聞く。「君はどうしてそんなに生き生きしているのだ?市役所にいたときは嫌な顔をしていて、ちっとも朗らかじゃなかったじゃないか」
すると彼女は、手に持っていたウサギのおもちゃにゼンマイを巻いて、彼の目の前に置いてこう答える。「私、お人形を作る工場で働いているの。そして思うの。小さなお人形を作るたびに、これでまた日本のどこかにいる赤ちゃんと仲良くなったなあと。そう思うと、仕事が楽しくて。生きがいがあるのよ」
それを聞いた彼は、「生きがい、生きがい」とつぶやく。そして、残り少ない人生で一つだけ「人のためになる仕事をしよう」と決心する。
市役所にもどった彼は、死ぬまでに自分に出来ることは何か探し始める。そして、つい最近、自分が惰性でたらい回しにした市民からの”湿地帯に公園を!”という請願を思い出し、それを実現させようと動き出す。彼の行動は変化し周囲も巻き込まれていく。そして努力は実を結び、湿地帯に公園が完成した。そしてその年のクリスマスイブの夜、雪のふる寒い公園で、彼はブランコに揺られながら息をひきとる。

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